公開情報
A.花木咲多郎(はなぎ さくたろう)
アップダイク探偵事務所に所属する探偵見習い。
VRでの捜査訓練ゲームでは高得点を記録し続けているが、リアルでの現場仕事は今日が初めて。瓶底眼鏡をかけた丸坊主君だが、目つきは鋭い。
尋問担当。相手が嘘を吐いているかどうかは、相手の目を見て話せばわかるという特技を持つ。
調査内容
KOBUSHIクラブ PM23:48――
汗と血の匂いが充満する地下室。換気扇が勢いよく回っているが、それだけでは室内の空気は循環されないようだ。
僕はその辺にあったパイプ椅子に腰掛け、首や腕をぽきぽきと鳴らした。自然と険しい顔つきになる。
今回は鬼ヶ島先輩との初の共同捜査だ。いや、そもそも僕にとっては現場仕事も初めてなのだ。きっとまともな探偵として登用できるかという試験も兼ねていることだろう。失敗するわけにはいかない。
鬼ヶ島さんは大男で、ちょっと威圧的な感じを受けるが、実際はちゃんとした人だって信じている。たしかに中学生レベルの数学が怪しい人で、推理には向いていないのかもしれないけど、どんな世界だって先輩は立てなければいけないものだ。ボロボロのスマホで誰かと話しているのも気になるが、プライベートには立ち入らないことにしよう。
彼に認めてもらうために、しっかりと捜査しなければ――
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目標 CHECK!(※ゲーム終了時に分岐があります)
※鬼ヶ島満月先輩に、自分を一人前の探偵として認めると言わせる
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花木 (よし、やるか)
僕は部屋を借り、アイアンフィストを殺せそうなやつらと一対一で話を聞くことにした。
パイプ椅子に腰掛け、ひとりずつ部屋の中に呼び出す。まずは、”ジャガーノート”ランディ。
喧嘩師というやつだろう。今もハーフパンツ一丁で、身体中にできた傷を静かになぞっている。
何かの凶器を隠している風でもない。これが彼のプライドということか。
花木 「ランディ、今日の試合はアンタが出たんだよな? アイアンフィストと戦ったと?」
ランディ「ああ、そうだ。思いのほか楽勝だった」
花木 「試合前は何を?」
ランディ「赤コーナー側の控室で精神統一していた。それだけだ」
花木 「それ以降についても」
ランディ「別にどうということはない。試合に勝った。まあ、セコンドと酒を飲んだか。ヤツはずいぶん上機嫌だったな」
花木 「セコンドというのは?」
ランディ「どこにでもいる中年の男だ。年中ランニングシャツ姿で……まあ、無害な男だ」
花木 「なるほど……アイアンフィストとはそれ以降会ってないと?」
ランディ「ああ、次に見た時には死んでいた」
僕はひとまずランディを解放した。次の人物に尋問しよう。
※
僕は続いて刻み屋メリーを呼んだ。20歳の女性で、このKOBUSHIクラブの内装も手がけている。尚且つ、ちゃんとファイターとしても登録しているらしい。なんだかアットホームな場所に思えてきた。
花木 「どうぞ」
メリーは、ペコリとお辞儀をした。微笑んではいるが、歓迎されている雰囲気ではない。
花木 「試合前の時間帯はどこに?」
メリーは斜め上くらいを指差した。外のことを言っているのだろうか。そして、そのあと物を抱えるような仕草をする。
まさか、尋問中ずっと喋らないつもりなのか……冤罪で捕まっても知らんぞ……?
花木 「試合中は?」
メリーは一言も喋らないまま、身振り手振りで必死に状況を説明してくれた。
僕が懸命にそれを解釈したところ、どうやら外から何らかの荷物をここに運び込んできたらしい。それは事務所の前に置いておいたようだ……最後にトンカチで何かを叩くような仕草もしてくれたので、きっと何らかの作業をしていたのだろう。正しいかはわからない。
花木 「では試合後は何を?」
今度はエントランスの方を指差し、タバコを吸い付けるような仕草をする。徹頭徹尾、ジェスチャーしかしないつもりだ。
花木 「他に何か言いたいことは?」
メリーは両腕で大きくバッテンを作った。僕は呆れ返り、メリーを帰らせた。なるほど、ハードな事件だ。
※
ランディとメリーの尋問は終わった。謎は残るが、少しずつ情報を詰めていけば辿り着けないことはないだろう。続いてはあのチンピラみたいな男を呼んでみよう。
クラシック・ジョニー。着古した褪せているパーカーに「Don’t spend money!」と書かれている通り、金を払うのが著しく嫌いなのだという。金を払わせようとするやつは大統領だろうと敵だと豪語する。逆に言えば、それ以外の情報がほとんどない。
花木 「試合前はど」
ジョニー「待て、この尋問は有料か? お前は俺から金を取るのか?」
花木 「違う、タダだ」
ジョニー「よし、お前は味方だ」
それは遭う人全員にやってるのか? と聞きたくなったのを堪えつつ、本題に入った。
花木 「アンタはファイターじゃないらしいな。どうしてこんなところに?」
ジョニー「久々にアイアンフィストに会いに来たんだ。随分羽振りが良くなったと聞いたんでな。友達が活躍してるなら顔を見せるのは当然のことだ」
花木 「そうか……では、試合が行われていた頃は何を?」
ジョニー「見ようとしたらガードの連中につまみだされた。金を払えと言われたんで殴りかけたぜ」
花木 「ん? 試合を見てないのか?」
ジョニー「ああ、そうだ」
花木 (アイアンフィストに会いに来たのに試合を見なかったのか? どういうことだ?)
花木 「で、そのあとは?」
ジョニー「エントランスのあたりで押し問答したり、周囲をウロウロして入り込むタイミングを見計らっていた。そしたらクラブが騒がしくなったんでな。隙を見て降りていくと、アイアンフィストのやつが死んでるじゃねえか! あの不細工な顔を忘れるわけがねえ!」
これ以上聞くことはないなと思い、僕は一旦ジョニーを解放した。最後はクラウンだ。
※
花木 「クラウン。入って」
クラウン「どーもー! 伝説のピエロ、ザ・レジェンド・オブ・クラウンだよ! キャンディ要る?」
花木 「さあ、腰掛けて」
クラウン「キャンディは?」
花木 「大丈夫だ」
大袈裟なポーズを取って椅子に腰掛けたピエロは、クラウンと名乗った。満面の笑みを浮かべているが、目は笑っていない。ピエロ恐怖症というものがあるらしいが、そうでなくても威圧感を覚える。彼がKOBUSHIクラブのファイターだと知っていれば尚更だ。
クラウン「なんでも話そうよ!」
花木 「ああ、では始めよう。試合前の時間帯はどこにいた?」
クラウン「それはわからない」
僕は目を丸くした。何故、いきなり声のトーンが――
クラウン「俺は時間に縛られた生活が嫌いだ。どこにでもいるし、そして同時にどこにもいない」
花木 「……では、その後は?」
クラウン「そういった質問に答えるのも不可能だ」
花木 「わかった、質問を変えよう。当日誰かと会ったか?」
クラウン「経営者とお話をしたよ! メリーとも会ってジェスチャーで会話をしたよ!」
花木 「他に伝えておきたいことはあるか?」
クラウン「クラウンはアイアンフィストを殺してないよ! 信じて! 彼に対しては恨みもなければ、貸し借りもないからねぇ!」
僕は頭が痛くなってきたので、クラウンを解放した。
首を回して、尋問について思い起こす。全員の目を見てしっかり話したが、誰も嘘を吐いているようには思えなかった。人の嘘を見抜けるというのは僕の特技だ。しかし、人殺しをしておきながら嘘を吐かないなんてことがあるのか……?
まるで事件の全貌が見えてこない。ひとまず鬼ヶ島先輩と合流し、考えを擦り合わせるべきだ。
……しかし、僕はまだ不安がぬぐえなかった。
今回の事件で僕がちゃんとした成果を出せなければ、探偵事務所での地位は低いままで、依然としてVRの捜査訓練ゲームでしか犯人を捕まえられないザコ野郎だと思われてしまう。必ず先輩と協力し、犯人を見つける必要がある。
果たして、鬼ヶ島先輩は僕のことをちゃんと一人前の探偵として認めてくれるのだろうか?
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目標 再CHECK!(※ゲーム終了時に分岐があります)
※鬼ヶ島満月先輩に、自分を一人前の探偵として認めさせる
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